ボブ・ディラン札幌第二夜。4/14Zepp Sapporo公演、菅野ヘッケルさんからの第11夜ライヴレポートです!!

お次は名古屋へ!

【ボブ・ディラン、2014年4月14日Zepp Sapporo:ツアー11日目ライヴ・レポート】


ボブ・ディラン
2014年4月14日
Zepp Sapporo


時報とまちがった人がいたかもしれないが、会場の明かりが消され、午後7時きっかりに3連チャイムが鳴り、スチュがアコースティックギターを弾きながら登場した。いつもとすこしちがったリフを弾いている。やがてバンドメンバーとボブが右手からステージに登場する。バンドは全員黒のスーツ、ボブは日本ツアーの初日に着用していたのとおなじ、ジャケットの袖、前身頃下部、ズボンの両サイドに銀色のハデな刺繍がほどこされたカントリースーツで登場した。グレーのスペイン帽子もかぶっている。

1曲目はもちろん「シングス・ハヴ・チェンジド」だ。昨夜は全体的にサウンドがややこもったように聞こえたが、ヴォーカルのヴォリュームを少し下げたのか、今夜はバランスが改善されて各楽器の音もクリアーに聞こえる。ステージ中央のマイクスタンドの前に立ったボブは、アップシングを混ぜながら、自由度の増したヴォーカルで歌い終えると、今夜の客の様子を確かめるように左右に視線を送る。続く「シー・ビロングス・トゥ・ミー」でもアップシングを混ぜながら歌う。マーチ風にアレンジされたこの曲ではスチュが刻むリズムギターがドローン、あるいはオープンコードのように響く。コンサート全体に言えることだが、トニーのベース、ジョージのドラムズ、スチュのギター、この3人のリズムセクションはいつも完璧だ。この曲で初めてハーモニカが登場するが、いつものような明白なハーモニカブレークはなかった。

ボブがピアノに移って、3曲目「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」がはじまった。いつもは用意されている椅子に座らず、立ってピアノを演奏していたが、今夜のボブはめずらしく椅子に座ってピアノを演奏する。立ったままだと体に負担がかかりすぎるからだろうか? ただ座って演奏することで、ピアノのパワーが増したようだ。ボブは得意とするマイナー調ロックのこの曲で、低音部でノリのいいリフを叩きだす。「ホワット・グッド・アム・アイ?」はていねいな歌い方で聞き手を引きつける。スチュのサイドギターも聞こえる。ジョージがマレットで叩き出す呪いを込めたようなビートとトニーのメロディアスなベースも魅力的だ。昨夜に比べると、今夜はサウンドのバランスがいい。「ウェイティング・フォー・ユー」では、ボブのピアノとチャーリーのギターがミニジャム演奏で優雅なワルツを奏でる。ピアノを座って演奏するボブに、刺繍が目立つステージ衣装は一段と映える。そのせいなのか、今夜のボブのピアノはみごとだ。曲調ががらりと変わって「デュケーン・ホイッスル」に移る。トニーが指ではじくスタンドアップベースとジョージがブラシで叩くドラムがオールドタイムなジャズバンドの雰囲気を高める。ボブも伸びやかな声で軽快に歌う。曲の終わりが近づくと、ボブも立ってピアノを叩き、ビッグジャム演奏になった。

ボブがステージ中央のマイクスタンドの前に移動して「ペイ・イン・ブラッド」がはじまった。両足を大きく広げて歌うボブは、片手を腰に当てる得意ポーズやヘッドバンギングを交え、パワフルに歌う。この歌では怒り、不安、不気味さが伝わってくる。観客も大歓声で応える。続いてスチュがアコースティックギターで刻む、よく知られるリズムがはじまる。代表曲「ブルーにこんがらがって」だ。歌いだしはソフトな感じだが、やがてアップシングを交え、メロディをくずし、「テイーーングルド・アップ・イン・ブルー」と自由度が増していく。すばらしいハーモニカを聞かせた後、ピアノに移って曲は終わった。1部の最後「ラヴ・シック」は圧巻のパフォーマンスだった。スチュがエレクトリックギターで鋭いリズムを刻み、ボブは両手を大きく動かしながら歌う。ボブはいつのまにか帽子を脱いでいる。チャーリーも切なさを感じさせる絶妙なソロを聞かせてくれた。マイクスタンドの前で得意ポーズを繰り出しながら歌うボブの姿を見ながら、ぼくはエルヴィスの影を重ねていた。どんどん様になってきた日本語を交えて、ボブは「アリガトウ。すぐに戻ってくるよ」と言い残してステージから消えた。

(ブレーク)
「最近のアルバムを買ってなかったけど、今の見たら買わなければならないな。『テンペスト』を買って帰ろう」混雑する喫煙所で若者たちの話がぼくの耳に入ってきた。たとえあまりなじみのない歌であったとしても、観客は感動するこれがパフォーマンスの力だろうボブのパフォーマンス力に衰えはない。体力が続く限り、ボブはライヴで歌い続けるはずだ。

8時10分、3連チャイムの合図でスチュが登場し、エコーをかけたエレクトリックギターでいつもとちがうリフを弾き始めた。すぐに全員がステージに戻り、「ハイ・ウォーター」がはじまった。ボブは帽子をかぶったままマイクスタンドの前に立ち、手を大げさに動かしながら歌う。ボブのヴォーカルは楽器であり、しかもこのバンドのなかでリードを取る唯一の楽器だとぼくは考えている。最近のボブのコンサートでは、ある楽器が長いソロを演奏することはない。ボブはインタヴューで「楽器のソロ演奏を聞くために、コンサートに来る訳ではない」といったようなことを語っていた。その通り。その場、その瞬間にしか体験できないボブを見たいのだ。固定セットリストでも不満は感じない。だれにも真似のできないフレージングなど、ボブの歌い方や表現の仕方は毎回変わる。それだけで充分だ。ハーモニカのイントロで「運命のひとひねり」に移る。75年の傑作『血の轍』の収録曲であり、代表曲のひとつであるこの歌では、説得力にあふれるヴォーカルに歓声があがる。次はピアノに移動して、新作『テンペスト』収録曲「アーリー・ローマン・キング」でヘヴィーなピアノブルースを聞かせてくれた。ボブのピアノ、ドニーのラップトップ、チャーリーとスチュのギターがビッグジャム演奏を展開する。

ボブが帽子を脱いでステージ中央のマイクスタンドの前に移動し、ハーモニカのイントロで「フォゲットフル・ハート」を歌いだす。いつもとちがって、頭上の6台の照明が点灯し、ステージがやや明るくなった。ハーモニカをくりかえし吹きながら、悲しさ、切なさを表現する。彼女の「ドア」は開いていたのだろうか? ボブは「ドア」ということばに感情を込める。一転して、ピアノの前に座ったボブが軽快なテンポのジャズナンバー風の「スピリット・オン・ザ・ウォーター」歌いだす。ボブはヴォーカルがリードするピアノリフを演奏する。「ドレミファソラシド」と音階をたどるリフを何度も繰り返し演奏する。こんなピアノを弾く人は、ボブのほかにはいない。

中央のマイクスタンドの前に戻って「スカーレット・タウン」がはじまる。観客は静まり返り歌の世界に引き込まれていく。ストーリーテラー・ボブの真骨頂だ。チャーリーがギターで、ドニーがバンジョーでメロディアスなリフを演奏する。『テンペスト』の収録曲が続く。ピアノに戻って歌う「スーン・アフター・ミッドナイト」は甘い調べのポップス風だが、ぼくは「ノット・ダーク・イエット」と通じる人生観、死生観を歌っているのかもしれないと思うようになってきた。どうだろう? 

中央に移って2部を締めくくる「ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」がはじまる。右手を高く上げたり、両手を広げたり、斜めの決めポーズを取ったり、今夜のボブはさまざまなジェスチャーを交えながら、吠えるようにことばを吐き出す。観客の興奮も頂点に達する。ことばを伝えたいという思いからか、歌詞の意味に合わせたジェスチャーもときおり交える。「シェキナ・ベイビー、ツイスト・アンド・シャウト/きみたちには何のことだかわかるよね」と歌いながら観客席を指差す、といった具合だ。最後は「どうだ」とドヤ顔で決める。そして、めずらしく軽くお辞儀をして、ステージから去っていった。

観客が速いテンポでアンコールを求める手拍子を打つ。ステージに戻ってきたボブとバンドが「見張り塔からずっと」を歌う。ボブは濁声を交え、吠えるように歌う。途中のピアノ・ブレークからの盛り上がりもすごい。今夜はロック版「見張り塔からずっと」だ。アンコール2曲めはもちろん「風に吹かれて」。ピアノを弾きながらボブが「ブロウイン・イーーーーーン・ザ・ウィンド」とのばして歌い、チャーリーがメロディアスなリフでバックアップする。最後はピアノからボブがハーモニカを吹きながらマイクスタンドの前に移動して終わる。

恒例の整列では、最前列の女性が投げ込んだ花束をボブは拾い上げ、鼻に押し当ててにおいを嗅ぐ。ほかにもいくつも花やプレゼントが投げ込まれる。まるでフィギュアスケートのリンクのように、トニーがステージに投げ込まれた花を集めてボブに渡した。照明が落とされてしまったので確認できなかったが、ボブは笑顔を浮かべていたにちがいない。微笑ましい光景を見たぼくは、ファンを大切にするボブの一面を見たような気がした。同時に、ボブは日本のファンが好きなんだなとも確信した。(菅野ヘッケル)




Bob Dylan
April 13, 2014
Zepp Sapporo


Act 1
1. Things Have Changed (Bob center stage)
2. She Belongs To Me (Bob center stage with harp)
3. Beyond Here Lies Nothin' (Bob on grand piano)
4. What Good Am I? (bob on grand piano)
5. Waiting For You (Bob on grand piano)
6. Duquesne Whistle (Bob on grand piano)
7. Pay In Blood (Bob center stage)
8. Tangled Up In Blue (Bob center stage then on grand piano)
9. Love Sick (Bob on center stage)

(Intermission)

Act 2
10. High Water (For Charley Patton) (Bob center stage)
11. Simple Twist Of Fate(Bob center stage with harp)
12. Early Roman Kings (Bob on grand piano)
13. Forgetful Heart (Bob center stage with harp)
14. Spirit On The Water (Bob on grand piano)
15. Scarlet Town (Bob center stage)
16. Soon After Midnight (Bob on grand piano)
17. Long And Wasted Years (Bob center stage)

(encore)
18. All Along The Watchtower (Bob on grand piano)
19. Blowin' In The Wind (Bob on grand piano with harp then center stage)

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